遅ればせながら、4月15日にリリースされたイナバサラスの新作「Maximum Huavo」(マキシマムウェボー)ーをレビューしたい。今作はB'zの稲葉浩志とスティーヴィー・サラスのプロジェクトの第2弾である。今作発売時のインタビューでイナバサラスはシンセを入れることを決まりとしていることが明かされている。その決まりの通り、第1弾作品「CHUBBY GROOVE」(チュビーグルーヴ)はシンセの印象が強く、ギタリスト・スティーヴィの影は薄い。その印象と打って変わって今作はギタリスト・スティーヴィの存在を感じることのできる作品となっている。実際、このアルバムにはバラード曲はなく、「必要ない」と判断したという。「ギターを強くしたい」といういうのは、稲葉氏の要望だ。スティーヴィ自身は、前作ではこれまで散々ギターを弾いてきたことから「ギターサウンドへのこだわりは薄かった」と語っている。前作はTAKのギターサウンドが好きなB'zファンにも物足りなかったものの、イナバサラス特有のシンセとグルーヴの新鮮さでファンを惹き付けた。だが、稲葉氏も同じことを続けてもファンには刺さらないと考えた部分もあるだろう。そこで今作は前作でもっていた要素にギターサウンドが加わった。これならギターサウンドが好きなB'zファンも満足できる。ギターサウンド好きな私自身も前作より今作の方が好みである。
それでは個々の曲についてレビューしていきたい。
01. Mujo Parade ~無情のパレード~
おすすめ度☆☆☆☆
「踊りましょ」のフレーズが頭に残るオープニングナンバー。ダンスがメインテーマではじまった曲で、スティービィが南米のパーティーに行った時に聴いた曲からインスピレーションを受けている。単なるEDMではなく、ギターソロが入りロック調のEDMとなっている。
02. U
おすすめ度☆☆☆☆☆
疾走感溢れるロックナンバー。このアルバムで一番好きな曲。随所に「千年に一回の恋愛ってあるの」というフレーズが入ってるのが印象的な楽曲。稲葉もオペラ歌手風に歌ったといい、新たな挑戦だったのようだ。ドラムはB'zの新サポートメンバーのブライアンティッシー。パワフルなドラムとギターサウンド、そしてEDMが組合わさったこのアルバムで最もおすすめな曲である。
03. KYONETSU ~狂熱の子~
おすすめ度☆☆☆☆
タイトルは「LED ZEPPLIN」のライブアルバム「永遠の詩(狂熱のライブ)」から来ている。歌詞にも「狂熱」という言葉が入っており、ハードロック好きの心をくすぶられる。こちらもダンスミュージックとロックが混ざりあった楽曲。シンセの音が重なりあって聴こえ面白い。
04. Violent Jungle
おすすめ度☆☆☆
アルバム製作の最初に作った曲。前半の3曲よりミディアムテンポの曲で、稲葉のさまざまな歌い方を楽しめる。
05. Boku No Yume Wa
おすすめ度☆☆
デビット・ボウイを意識した楽曲。稲葉自身もすごく好きな曲と語るものの、Aメロはあまり得意ではなかったらしく、結構やり直したという。スティーヴィの歌へのディレクションも細かく、イナバサラス流のデビット・ボウイ曲といったところか。
06. Demolition Girl
おすすめ度☆☆☆
今作で、はじめてミュージックビデオを公開するなど、このアルバムのプロモーションの核となった楽曲。「POP POP POP」という歌詞が入ったキャッチーなサビが印象的なダンスなナンバー。コーラスにも女性の声が入り、タイトル通り女性らしさを感じさせる。ただ、前半3曲のようなギターサウンドは薄く、物足りない感はなきにしもあらず。
07. IRODORI
おすすめ度☆☆☆☆
新型コロナによる緊急事態宣言中に自宅でのセッションがアップされた曲。曲の細工は軽微でイナバサラス感はないが、メロディと歌詞が良く「良い曲」である。Aメロのリズムが複雑だが、上手く歌詞がハマり耳の残る。
08. You Got Me So Wrong
おすすめ度☆☆
ギターの音を前に出しつつも、とにかくシンプルにしたいというコンセンサスの曲。曲名がサビになっている。稲葉は普通のロックロックロールではなくて、軽すぎず、重すぎずにしたかったという。
09. Bloodline
おすすめ度☆
Princeを意識したファンキーな曲。サビの最後で盛り上がっていく。最後に稲葉氏をはじめ、スティービィらバンドメンバーが歌ったソウルフルなコーラスが入っている。
10. Take on your love
おすすめ度☆☆☆
曲中に「Take on your love」を意識した「諦観にゃ早い」といったフレーズがあり、面白い。サウンドはスティーヴィのギターソロが入ったロックサウンドとなっている。
11. CELICA
おすすめ度☆☆
稲葉がかつてあったトヨタの自動車「セリカ」をモチーフにし、自らの体験をそのまま歌詞したミディアムテンポの楽曲。歌詞の内容は、アマチュアバンド時代にあるバンドメンバーの不可抗力で急にライブがなくなり、残った稲葉氏とドラマーだけでセリカにのってドライブした時の話である。
12. CELEBRATION ~歓喜の使者~
おすすめ度☆☆
ラテンリズムのミディアムテンポ曲。スティービィと彼がプロディースしているコスタリカのバンドが一緒に書いた曲。流れるような感じでもう一度、最初の曲を聴きたくなる。
今作は前作を上回るアルバムではあるものの、前半3曲の疾走感、IRODORIまでの曲の完成度は、その後下がる印象は否めない。前作は最後にTROFYなどがあり、アルバム後半も楽しめたが、今作はやや力不足だ。稲葉がこのアルバムの制作中にツアーに向けて突貫工事でつくっていると言っていたように、突貫工事部分の完成度がアルバム後半で露呈したのかもしれない。しかし、今作は、ツアータイトル「the First of the Last Big TOUR2020」にある通り、イナバサラス最後のアルバムになるかもしれない。新型コロナウイルスの影響でライブの開催は当面難しい情勢である。ぜひアルバムを聴いてこの期間を乗り切りたい。